2013年6月28日8:30
ビジョンを現実化するPayPal
~Reinventing Paypal~
日本カードビジネス研究会 代表 佐藤 元則
PayPalはいまから2年前の2011年、オンライン(インターネット市場)とオフライン(リアル店舗市場)の境界がモバイルによって消滅すると予測。事業計画に10兆ドルという巨大な市場への参入を盛込んだ。オンライン決済会社としてのPayPalから、リアル市場を含む国際金融ネットワーク会社への変身を明確に打ちだしたのである。
国際金融ネットワーク会社への変身。つまりこれは VisaやMasterCard、Amexという国際決済ブランドと同じポジションにつくということを意味している。クレジットカードが誕生して60年。国際ブランドが営々と築いてきた決済ネットワークへの宣戦布告である。
企業は事業計画どおりに変われるのだろうか。いままでの延長ではなく、新たな事業領域で戦えるのだろうか。VisaやMasterCardという巨人に対し、PayPalという後発の弱者に勝ち目はあるのだろうか。
旧約聖書に登場する巨人ゴリアテを倒したのはダビデの強い意志と投石器だった。PayPalの明確なビジョンと、投石器にかわるモバイルは、企業の変容に威力を発揮するのだろうか。日本でもようやく存在感をあらわしはじめたPayPal。そのチャレンジをレポートしよう。
●稼動顧客数16倍、取扱高20倍
PayPalのすごさは、事業計画を着実にこなし、目指すゴールに近づいていることだ。PayPalの成長過程を振返ってみよう。1998年創業のPayPalがeBayに買収されたのは2002年。ここから事業会社として本格的な成長がはじまる。そのときの稼動顧客数は790万人だった。稼動顧客とは12カ月以内に1回以上利用した人をいう。それが2011年には1億人を突破し、2012年末には1.23億人と2002年比15.5倍になった。2011年対比でも15.4 %伸びている。PayPalの稼動顧客とFacebook利用者との違いは、決済サービスを利用したかどうか、ということ。実売に結びつく顧客を増やし、維持しつづけている。
稼動顧客数の伸びにしたがって、取扱高も11年間成長しつづけている。2002年の取扱高はわずか70億ドル。それが2012年には1,450億ドルで、20倍強になった。14兆円を超えている。規模が大きくなったあとの成長率も高い。2011年対比の伸び率は22%だ。稼動顧客数の伸び以上に取扱高が伸びているのは、ひとりあたりの利用額が多くなっているからである。ちなみに2012年のVisaの取扱高は約8兆ドル、MasterCardは約3.7兆ドル。PayPalはまだ足もとにもおよばない。取扱高の伸びと同様、収益も11年間成長しつづけている。2002年2.4億ドルの収益から、2012年には55.8億ドルにジャンプアップした。2012年の取扱高収益率は3.85%となっている。
収益の大半はトランザクション手数料だ。eBayを収益ベースにしていた2005年、eBayとeBay以外の加盟店部門の収益比率は70対30で。eBay比率が高かった。それが2008年にはほぼ拮抗し、2009年にはeBay以外の収益が多くなる。2012年のeBay比率は33%。2005年とは真逆の構成比率になった。子供の成長とおなじ。eBay傘下にはいってから10年で、親離れが進んでいる。それはクロスボーダー取引でもいえる。米国で生まれたPayPalだが、2012年の取扱高をみると、米国が53%、米国以外のクロスボーダー取引きが47%となった。収益でみるとクロスボーダーのほうが52%と多い。国際金融ネットワーク企業らしい核が形成されている。