クレジットカードデータの発展的活用

2016年5月10日8:45

国内でも経済産業省が「クレジットカード産業とビッグデータに関するスタディグループ」を開催するなど、クレジットカードの発展的活用が期待されている。クレジットカードのビッグデータの重要性とデータ活用の現状や課題、先進事例や今後の展望について、野村総合研究所の冨田氏に解説してもらった。

野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 上級コンサルタント 冨田 勝己

①決済サービスに関するビッグデータ活用の意義

スマートフォンやアプリの普及に伴って、位置情報やWeb閲覧(つぶやき含む)・利用情報などのビッグデータが、今やさまざまな企業によって利用できるようになってきている。これらは各人の所在や興味・関心などを把握できるので単体でも有用であるが、決済データと付き合わせることで、商品・サービスの購買の予兆となる。こうした予兆を捉えた販促施策を実施することによって、より効果的なニーズのマッチングを行えるようになるのだ。

一方でその突き合わせの対象となる、従来からクレジットカード事業者で保有している膨大な量の情報についてもまた、その精緻化や標準化などを通して、顧客理解の深化や販促活動の効率化を実現する余地がある。本稿ではクレジットカード事業者が保有するデータに焦点を当て、その有効活用に向けた課題の整理や先進事例、今後の展望などを述べる。

②クレジットカードのデータ活用の現状

クレジットカード事業者が通常取得するデータは、特にマーケティング関連では属性情報と取引情報とに大別される。属性情報とは、クレジットカードの発行に際して会員が申込書類等に記載する情報であり、自身のその時点の住所や氏名、生年月日、勤務先、年収などで構成されている。また取引情報は会員が各店舗で決済を行う際に生じる情報で、取引の日時、金額、店舗名、業種コードなどで構成されている。

日本におけるクレジットカードの年間決済総額は、日本クレジット協会によると2014年時点で年間約46兆円。これは民間最終消費支出の約16%に相当するが、近年10%前後の成長率で増加しているため、今後も引き続き増加することが予想されている。また日本銀行の決済システムレポート2012-2013の推計によると、クレジットカードの決済件数は2011年時点で80億件に達しているが、決済総額の増加を勘案するに、その件数も増加し続けていると推察される。

この膨大な件数を有するクレジットカードの取引情報は、その取引に伴う信用供与(不正検知含む)以外に、クレジットカード会社による分析を経て、販売促進や広告宣伝の各施策の立案、出店計画策定など、加盟店の種々の活動をサポートするためにも用いられている。特に近年では、クレジットカードの取引情報を店舗への送客などの販促に活用するCLO(Card Linked Offer)が日本でも導入されてきている。

③データ活用における主な問題

膨大な取引件数を誇る取引情報や信頼性の高い属性情報など、クレジットカード事業者が有するデータには一定の有効性があるものの、現時点では幾つかの問題や課題が存在している。(図表)

「図表」 クレジットカードデータ活用の主な問題点

「図表」 クレジットカードデータ活用の主な問題点

1.登録情報が会員の現状と異なっているケースがある

クレジットカードに限った話ではないが、転居に伴う住所変更や転職に伴う勤務先の変更など、入会時に登録している情報に変更が生じた場合であっても、登録内容を変更しない人が一定割合存在する。

2.店舗の詳細やその業種を正しく把握できないケースがある

決済が行われた店舗の名称や業種は、その取引の特性を把握する上で有用な情報である。これらは各加盟店の管理会社であるアクワイアラによって登録されているが、全アクワイアラ共通のルールがないため、企業名のみで個別店舗名が登録されない、同じ業種に属する企業がそれぞれ別の業種(または業種不明)として登録される、などのケースが存在する。また、業種登録後に業種転換を行った企業では、転換後の業種が反映されていないなどのケースもある。

3.購入した個々の商品は把握できない

近年ではポイントカード等の会員IDとPOSデータとを紐付け、ID別に購入商品単位での購買分析(ID-POS分析)を行うことで、会員の理解を深め、より効果的な販促活動や広告宣伝活動を実現させる企業が増えてきているが、クレジットカードの取引データにはPOSデータは通常は付随しないため、商品単位での購買分析は行えない。

4.本人同意不要の外部へのデータ提供の環境が完全には整っていない。

個人情報保護法の改正によって、「匿名加工情報であれば、本人の同意なく外部へのデータ提供が可能」となる。これはクレジットカードのデータについても同様であり、クレジットカード各社の相互利用や加盟店への提供などによる有効活用も期待されているが、その匿名化についての明確な基準が現在はまだないため、各社とも積極的な活用には踏み出せていない。また、個人情報保護法には準じていても、プライバシーの観点から消費者の支持を得られない可能性があることも、各社を踏みとどまらせている一因となっている。

④データ活用の先進事例

1.POSデータと連携したCLO
 
導入が進んできているCLOでは、一般的には取引情報を活用するため個々の商品情報と連携することはないが、この仕組みにPOSを連携させ、商品情報を活用するケースも現れてきている。

中国・四国・九州地方を中心に「ゆめタウン」や「ゆめマート」を手がけているイズミは、2015年10月から実施した「ゆめタウンアプリ ら・ら・ら お得にチャレンジ!キャンペーン」の中で、大日本印刷(DNP)と日本ユニシスが提供するCLOサービスを活用し、店舗のPOSと連携した販促を行った。キャンペーン対象者の会員は、店舗でキャンペーンの対象商品をクレジットカードである「ゆめカード」や電子マネーカード「ゆめか」を提示して購入すると、自動的にキャンペーンに応募でき、抽選で景品が当たるようになっている。

2.取引情報のマクロ経済分析への活用

クレジットカードの取引情報は、今や国の経済トレンドを読み取る上で欠かせない材料として活用されるようにもなってきている。

MasterCardは2016年1月25日、日本国内の消費者動向及び小売業績についてのマクロ経済分析を提供するレポートとして、SpendingPulseを提供すると発表した。このレポートはMasterCard Japanの決済ネットワークで処理された取引を分析し、現金などを含む他の決済手法の傾向も取り入れた統計的なモデルを使って制作されている。

⑤より効果的なデータ活用に向けて

クレジットカードの利用が今後一層拡大するに連れて、そのデータの有用性もより高まり、現在の活用内容の高度化だけでなく、新たな活用形態も増えていくことが予想される。その流れを促進する上で、取引情報の質の向上は効果的であるといえよう。例えば、取引情報における店舗情報の精緻化(個別店舗の識別可能化)や、業種コードの標準化(各アクワイアラ共通の業種コード体系の導入)がなされれば、データの精度が高まり、より効果的な分析やそれに基づいた施策の立案が可能になる。

また、取引情報をさまざまな企業が積極的に活用していく上で、企業・消費者が共に安心できる環境の整備が必要である。そのためにも、匿名加工情報に関する消費者理解を深めていくほか、企業側も各社の保有データの特性に合わせた匿名加工内容などを取りまとめ、業種別にガイドライン等を策定していくことが望ましい。

こうした活動は、各社が個別に取り組むだけでは十分な成果を出すことはできない。各社が足並みをある程度揃え、それぞれにメリット・デメリットを見極めながら施策を検討し、実行していくための仕組みを、官民一体となって構築していく必要があるだろう。

カード決済&セキュリティの強化書より
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