中国のコンタクトレスペイメントとモバイルペイメント(下)

2016年5月9日8:00

中国銀聯のコンタクトレスペイメント「Quick Pass」

金融ICカードのスタンダードPBOC2.0(2010年バージョン)に基づいて2012年2月にリリースされた中国銀聯のコンタクトレスペイメントソリューションのQuick Pass(図表13)を搭載したクレジットカードやデビットカードの銀聯カードは、2015年9月末で16億枚以上発行されており、銀聯カード全体の30%以上を占めている。また、Quick Pass対応のPOSカード決済端末機も570万台以上が設置済みで、中国におけるPOSカード決済端末機全体のおよそ半分以上を占めている。Quick Passのネットワークは、コンタクトレスICカードのみならずモバイルペイメントのNFC(Near Field Communication)でも用いられている。

(図表13) 中国銀聯のコンタクトレスソリューション“Quick Pass”のロゴマーク

(図表13) 中国銀聯のコンタクトレスソリューション“Quick Pass”のロゴマーク


中国銀聯の電子財布(電子マネー)「UPcash銀聯」

(図表14)は広東省広州市にある地方銀行である広州農村商業銀行の銀聯カード(デビットカード)で、中国銀聯のコンタクトレスペイメントであるQuick Pass機能が付いたデュアルインターフェースのICカードが用いられている。同カード裏面には、UPcash銀聯(銀聯電子マネー)(図表15)のロゴマークが付されている。現在中国で新規に発行されている金融ICカードの大半に、このUPcash銀聯機能が付いている。

(図表14)コンタクトレスペイメント「Quick Pass」機能付きの銀聯カード(デビットカード)

(図表14)コンタクトレスペイメント「Quick Pass」機能付きの銀聯カード(デビットカード)

(図表15)「UPcash銀聯」 (銀聯電子マネー)のロゴマーク

(図表15)「UPcash銀聯」
(銀聯電子マネー)のロゴマーク

UPcash銀聯とは、ドイツの「Geld Carte(ゲルトカルテ)」のようなIC電子マネー(電子財布)であり、電子財布内に通常最大1,000元(約2万円)までのバリューをロードすることが可能で、バリューの範囲で決済が行われる。この電子マネーによるコンタクトレスペイメントのQuick Passによる決済の場合、中国銀聯の6桁のPIN(暗証番号)の入力とサインは省くこともできる。

UPcash銀聯機能が付いている金融ICカードには、(図表16)のように、銀聯デビットカードの場合、口座振替用の口座(アカウント)と電子財布(電子マネー)のUPcash銀聯という2つの口座機能が備わっている。同じく銀聯クレジットカードの場合は、クレジットカード口座(アカウント)と電子財布(電子マネー)という2つの口座機能が備わっている。

(図表16)銀聯の金融ICカード

(図表16)銀聯の金融ICカード


IC電子マネー

1990年代にヨーロッパを中心にコンタクトICカードを用いたIC電子マネー(電子財布)が開発され、当時急速に普及していたオンラインデビットカードへの搭載が盛んに行われていたが、PIN(暗証番号)入力やバリューのチャージの煩わしさなどにより現在ドイツのGeld Carte(図表17)やシンガポールの「NETSキャッシュ」など一部を除いて、多くのプログラムが中止を余儀なくされている。

(図表17)IC電子マネー「Geld Carte」機能が搭載された1990年代のデビットカード

(図表17)IC電子マネー「Geld Carte」機能が搭載された1990年代のデビットカード


中国のモバイルペイメント

今、中国ではスマートフォンやタブレット端末機の普及に伴い、モバイルペイメントが急速に伸びている。(図表18)は中国で展開されている近接型(店舗型)のモバイルペイメントを分類したもので、QRコードによるモバイルペイメントとNFC(Near Field Communication)によるモバイルペイメントの2つに分けられる。QRコードによるサードパーティのモバイルペイメントには、中国のE-コマース最大手のアリババグループのオンラインペイメントソリューションの支付宝(Alipay)や中国最大のチャットのテンセントグループの微信支付、「百度銭包(旧百付宝)」や「京東(旧網銀在銭)」、万達グループの「快銭(99Bill)」、蘇寧雲商グループの「易付宝」などがあり、それぞれ独自のペイメントネットワークを形成している。

(図表18)中国の主なモバイルペイメント

(図表18)中国の主なモバイルペイメント

こうしたサードパーティ型モバイルペイメントは、(図表19)のように2013年から2014年にかけて急速に拡大している。サードパーティ型モバイルペイメントの中心的役割を担っているのがアリババグループの支付宝であり、中国最大のチャットのテンセントグループの微信支付で、2014年度は2社で9割以上のシェアを有している。

(図表19)中国のサードパーティ型モバイルペイメント 出典:iReserch Global Inc.

(図表19)中国のサードパーティ型モバイルペイメント
出典:iReserch Global Inc.

一方、支付宝や微信支付などのサードパーティのモバイルペイメントのあまりにも急激な拡大に危機感を持つモバイルフォンキャリアや金融機関は、NFCによるモバイルペイメントに注力し始めている。そのNFCによるモバイルペイメントは、中国電信(China Telecom)や中国移動(China Mobile)などのモバイルフォンキャリアや中国銀聯がこれまでいろいろなトライアルに取り組んできた。これらに加えて、2016年からはアメリカベースのモバイルデバイスの大手メーカーであるAppleのApple Payや韓国ベースのモバイルデバイスの大手メーカーであるSamsungのSamsung Payが中国銀聯とタイアップし、中国銀聯のコンタクトレスペイメントのネットワークQuick Passを生かしてNFCモバイルペイメントの実用化が行われる。

支付宝(Alipay)のモバイルペイメント

アリババグループのエスクローサービス付きの代替オンライン決済サービスの支付宝(Alipay) (図表20)は、中国最大のオンライン決済ソリューションとして知られているが、近年QRコードによる近接型(店舗型)のモバイルペイメントが急速に伸びている。2015年7月に従来からのパソコンベースのインターネットペイメント用の電子財布である支付宝とスマートフォンなどのモバイルペイメントのモバイル財布である支付宝銭包を支付宝の電子財布に統合し、O2Oのマーケティングツールを強化したアプリケーションプラットフォームへの転換を果たしている。支付宝のユーザー数は8億人を超え、アクティブメンバーも3億人を超えている。支付宝は、2015年第1四半期で第三者型オンラインペイメントにおいて半分ものシェアを占め、2008年に新たに進出したモバイルペイメントにおいては80%を超える大きなシェア占めている。

(図表20)支付宝(Alipay)

(図表20)支付宝(Alipay)

支付宝(本社:浙江省杭州市、創業:2003年)は、中国のIT企業グループのアリババ(阿里巴巴)グループ(本社:浙江省杭州市、創業:1999年)傘下の企業で、同じくアリババグループの中国最大手のE-コマース企業の淘宝網とのエスクローサービスによるオンラインペイメントで業績を拡大してきた。

支付宝のQRコードによる近接型(店舗型)のモバイルペイメントは、最初にユーザーのスマートフォンなどのモバイルデバイスに支付宝の専用アプリをインストールし、支付宝のモバイルアプリ内のモバイル財布(電子財布)に会員は自分が持っているクレジットカードやデビットカード(銀行口座)などの銀聯カードやプリペイドカードの紐づけを行う。

会員が店舗(図表21)でのショッピングやタクシー、自動販売機での支払い、個人間での資金のやり取りなどに際し、アプリを駆動させ、支付宝のPIN(暗証番号)を入力して認証を行い、スマートフォンの画面に表示させたモバイルペイメント用のQRコードを支払い相手に提示し、店舗などに設置されているPOS端末機に連動したQRコードリーダで会員が提示したQRコードを読み込む。自動販売機の場合はQRコード読み取り機にQRコードが表示された画面をかざして、読み込ませる仕組み。また、タクシーの運転手など、代金を受け取る側のスマートフォンでQRコードを読み取ることもでき、決済端末機としても機能する。こうして、スマートフォンによる決済が完了すると、支払者である会員のスマートフォンに、『支払完了』の旨が表示される。なお、こうしたモバイルペイメント用のQRコードは、1分ごとに変わるワンタイムパスワード機能を有しており、一定時間を過ぎるとQRコードは無効となり、再度QRコードを表示する操作が必要になる。

(図表21)支付宝のアクセプタンスマーク

(図表21)支付宝のアクセプタンスマーク

モバイル財布の支付宝のQRコードによる近接型(店舗型)のモバイルペイメントは、単に店舗でスマートフォンによって決済できるだけではなく、グルメクーポンや割引クーポンアプリ、タクシー配車アプリなどのO2Oマーケティングなどと連動している。支付宝は、リクルートライフスタイル社とタイアップし、日本でも訪日中国人客を対象にモバイル決済を行っている。(図表22)は、中国建設銀行支付宝銀聯カード(デビットカード)である。

(図表22) 中国建設銀行支付宝銀聯カード(デビットカード)

(図表22) 中国建設銀行支付宝銀聯カード(デビットカード)


微信支付のモバイルペイメント

チャット(対話アプリ)の中国最大手のテンセント(Tencent)グループ(本社:広東省深圳市、1998年11月設立)の代替オンラインペイメントサービスが「財付通(Ten Pay)」である。財付通のモバイル財布によるQRコードを用いた近接型(店舗型)モバイルペイメントが微信支付(図表23)で、9億人以上の会員を擁する微信(We Chat)のユーザーを対象に、「微信支付(We Chat Payment)」を2013年にスタートしている。微信支付は、2015年9月からはじまった香港や韓国に次いで、日本でも訪日中国人客を対象にモバイル決済がすでに始まっている。(図表24)は、招商銀行QQテンセント銀聯カード(デビットカード)である。

(図表23)微信支付

(図表23)微信支付

(図表24) 招商銀行QQテンセント銀聯カード(デビットカード)

(図表24) 招商銀行QQテンセント銀聯カード(デビットカード)

微信支付も支付宝のようにM-コマースでのオンライン決済のほか、QRコードによる近接型(店舗型)のモバイルペイメント、モバイルクーポンなどを介したO2Oによる店舗へ誘引による決済やアプリを搭載したスマートフォン同士でQRコードを表示ないし読み取って行われる個人間決済、請求書支払などオン・オフの決済が可能である。

モバイルクーポンなどを介したO2Oによる店舗への誘引による決済の手順は、クーポンサイトでクーポンを購入し、支払い方法(支付宝、微信支付、モバイルバンキング)を選び、支払い方法(例えば、微信支付)の所定のパスワードを入力するだけである。また、QRコードをスマートフォンの画面に表示させ、店舗のレジでQRコードをスキャンして決済を行うことも可能である。さらに、コンビニエンスストアでの微信支付の支払いは、微信支付のアプリをクリックして、パスワードを入力し、QRコードをスマートフォンの画面に表示させ、コンビニエンスストアのレジでスキャンさせて支払う。

クラウドQuick Pass

2015年12月に中国銀聯は、新しいオン・オフのモバイルペイメントソリューションであるCloud Quick Pass(図表25)、NFCモバイルペイメントソリューションでありモバイル財布であるApple PayとSamsung Payとの提携というモバイルペイメントに関する3つの重要な発表を行っている。

(図表25)クラウドQuick Pass

(図表25)クラウドQuick Pass

中国銀聯のコンタクトレスペイメントソリューションのQuick PassのモバイルペイメントソリューションであるCloud Quick Passは、(図表26)のようなサポート銀行や企業の支援を得て、NFC(Near Field Communication)や「HCE(Host Card Emulation)」、「TSM(Trusted Service Management)」、「Token(カード決済用代替番号生成)」などのテクノロジーを用い、近接型(店舗型)のオフライン決済のほか、モバイルコマースにおける銀聯カード加盟店でのセキュアなオンライン決済も可能で、直近の10件のトランザクションレコードの照会も可能である。

(図表26)クラウドQuick Passの主なサポート企業 出典:中国銀聯のHP

(図表26)クラウドQuick Passの主なサポート企業
出典:中国銀聯のHP

Cloud Quick Passは、中国工商銀行を通じて2015年5月からマクドナルドやガソリンスタンドで実証実験を行っている。中国銀聯のコンタクトレスペイメントソリューションのQuick Passは、これまでのAndroidのみならず2016年からはAppleのNFC機能搭載のモバイルデバイスにも対応可能となる。

中国銀聯とApple Pay

中国銀聯は、アメリカベースの通信機器メーカー大手のApple社とタイアップしNFCベースのモバイルペイメントでありモバイル財布であるApple Pay(図表27)が中国銀聯の500万台以上のPOSカード決済端末機によるコンタクトレスペイメントソリューションのネットワークであるQuick Passで利用できるようになる。Appleは、中国国内でApple Payを運用するため2015年6月に上海市の自由貿易区でアップルテクノロジーサービス(上海)社をすでに設立している。中国でApple Payをサポートする銀行には、中国工商銀行、中国銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国郵政銀行など15行が予定されている。使用可能なデバイスは、iPhone6、iPhone6Sプラス、iPhone6S、それにApple Watchである。

(図表27)Apple Pay

(図表27)Apple Pay

Apple Payは、(図表28)のように2014年10月にアメリカでリリースされ、VisaのVisa payWaveやMasterCardのMasterCard Contactless(旧PayPass)、American ExpressのExpress Payのコンタクトレスペイメントのネットワークで利用できる。次いで、2015年7月からアメリカと同様にイギリスでリリースされている。2015年11月には、American Expressと提携し、カナダとオーストラリアでAmerican ExpressのExpress Payのコンタクトレスペイメントのネットワークでの展開を始めたほか、2016年には香港やシンガポール、スペインでの同様の展開が予定されている。

(図表28)Apple Payの事業展開

(図表28)Apple Payの事業展開


中国銀聯とSamsung Pay

中国銀聯はAppleに引き続き韓国ベースの通信機器大手メーカーのSamsung社ともタイアップし、NFCのモバイルペイメントでありモバイル財布であるSamsung Pay(図表29)を中国銀聯の500万台以上のPOSカード決済端末機によるコンタクトレスペイメントソリューションのネットワークであるQuick Passで利用できるようになる。モバイル財布のSamsung Payは、近接型(店舗型)のモバイルペイメントのみならず、リモート型のオンラインペイメントも可能である。Samsung PayもApple Payや中国銀聯のCloud Quick Passと同様にToken(カード決済用代替番号生成)テクノロジーを用いている。

(図表29) Samsung Pay

(図表29) Samsung Pay

中国銀聯は2015年12月のSamsung Payとの提携に関するリリースにおいて、次のようにSamsung Payを評している。

・操作が簡単で「使いやすい」
・中国銀聯のCloud Quick PassやQuick Passで中国における500万台以上のQuick Pass対応のカード加盟店での決済ができる「広範な領域」
・指紋認証アプリやToken(カード決済用代替番号生成)などによる「高いセキュリティ」

Samsung Payは、(図表30)のように2015年8月に韓国で最初にリリースされ、次いで9月にはアメリカでリリースされている。2016年には、中国、スペイン、イギリスでの展開が予定されているほか、オンラインショップにおけるモバイルペイメントも可能となる見込みである。

(図表30) Samsung Payの事業展開

(図表30) Samsung Payの事業展開

カード決済&セキュリティの強化書より

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