Visaの2020年に向けたセキュリティ強化の取り組み(下)

2016年7月14日8:00

■ビザ・ワールドワイド(Visa)

Visaが行うべきと考える4つの課題
カード情報漏洩時には流出したアカウント情報をイシュアに即座に提供

それでも、これで私たちの仕事が終わったというわけではありません。これからVisaがすべきと考えていることは、究極的に次の4点に集約されています。

まずはデータの保護です。サイバーセキュリティは喫緊の課題だと考えており、サイバー攻撃や犯罪者からカード情報を守るためにシステムをより強固にしていく必要があると考えています。次はデータの無価値化です。加盟店から仕向けられるカード情報を、可能な限り、カード犯罪者にとって価値のない状態にしておくためのソリューションを導入すべきであると考えています。第3に挙げられるのは責任ある改革ということです。私どもセキュリティが改革の中心にやはり置かれているという状況、新しい設計開発には初期段階からセキュリティが組み込まれている状況が必要であり、事後対応にしてはならないと考えています。第4には不正予防が挙げられます。不正やカード情報流出が発生した場合に、それを早期に発見し、ダメージを最小化するためのデータ分析に対して投資を続けていきます。

この4つのタスクについて、もう少し詳しく紹介いたします。第1にカード情報保護ですが、これはペイメントセキュリティの基本と考えており、PCI DSSがそのベースラインをなすものとなります。PCI DSS基を遵守していれば防げたであろう多くのカード情報流出事故を見てきました。その意味では、PCI DSSの準拠は大変価値のある要素ですが、決して万能薬ではなく、あくまでもスタートラインであると考えています。

歴史的にヨーロッパや米国ではサイバーハッキングが数多く見受けられてきましたが、これからは犯罪者の関心事は、アジアや中近東、アフリカ、東欧等にシフトしていくと予想しています。犯罪者を寄せ付けないための情報セキュリティは重要ですが、私たち自身も、高くて頑丈な壁を構築していくという発想から、よりスマートで簡易で効果的な対応へとシフトしていくことが求められていくのだろうと思っています。

第2にデータの無価値化ですが、私どもは、組織がいかなるときでも完全に安全であり続けるということは難しいと認識しています。ですので、セキュリティにおいてもっとも重要なのはパラダイムシフトであり、その1つが、例え盗まれても価値がないようにしておくという発想になると思います。もし、加盟店のシステムにおいてカード情報の処理が少なく、あるいはなければ、犯罪者にとってハッキングの標的として魅力がなくなってしまうわけです。これを実現するための3つのテクノロジーが、EMVチップ、トークナイゼーション、カード情報伝送時の暗号化となります。

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EMVチップとは、EMV仕様におけるカードとPOSのIC化対応を指しています。EMV仕様には取引の都度変化する動的な認証コードがあり、これを盗んでも、他の取引で使うことはできません。トークナイゼーションは、カード番号をまったく別の識別子であるトークン番号に置き換え、この番号を加盟店からプロバイダ、イシュアへカード情報の代わりに使っていただくということです。このトークンも、たとえ盗まれたとしても、他の加盟店で使うことはできません。そして、カード情報伝送時の暗号化は、カード会員から加盟店、アクワイアラ、イシュアにカード情報が届くまでに、各ポイントで異なる暗号化と異なる暗号化キーを使いながら伝送するということであり、インターネットのようなオープンなネットワークで通過中のデータが盗まれても、それをそのまま不正使用されることができません。

第3の責任ある改革についてですが、消費者利便性を向上させ、未来を変えていくテクノロジーは、時としてセキュリティとは正反対の方向を向いています。テクノロジーは既存の概念や常識を破壊して、消費者により便利で快適なものを目指すわけですが、一方ではリスクを高めることもあります。私どもの戦略では、すべての製品、プロダクツにおいて、初期段階からセキュリティが考慮され織り込まれているということを求めています。

過去数年間、初期段階からセキュリティ要件を考慮し、対応してきた例をいくつか見てきました。例えば、2014年9月に発表されたスマートフォンによる決済ソリューションであるApple Payは、消費者に新しい感動や利便性を提供していますが、実はトークナイゼーションという技術が採用されており、カード情報を安全に保護する、非常によいモデルであると考えています。私どもは、新しいソリューションがいったん市場に出てしまうと、後からセキュリティホールが見つかっても、それを後追いで手直しすることがいかに困難かということを経験しています。

最後の不正防止ですが、データ分析はやはりカード情報流出を早期に発見し、封じ込めていくことに役立ちます。私どもは常に、クライアントであるカード会社とともに、カード情報流出を早期に発見するために取り組んでいます。イシュアの報告、あるいは流出元や法執行機関、警察当局などの報告の他に、私ども自身もモニタリングを通じカード情報流出をできるだけ早く発見しようとしていります。

そのための1つの手段としてCPP分析があります。CPPとはCommon Point of Purchase、つまり、共通の利用先ということですが、不正データを分析し、それぞれ過去の真正利用先を調査・特定して、そこから発見された共通の利用元がカード情報流出元になっている可能性を考えます。このような分析を通じてCPPを早期に発見し、対策を打っていくことになります。

カード情報が流出した場合、Visaの最優先事項は、それを特定して封じ込める、そして結果的に消費者を保護するということになるのですが、そのチャンネルを通じ得られる情報は、流出元を特定するとともに、流出を早期に封じ込めることに役立てられます。

Visaはイシュアに対し、流出したアカウント情報を即座に提供していきます。イシュアにはその情報を使い、アカウントのモニタリング、あるいは無効処理、あるいはカードの差し替えなど、必要な対応を取っていただき、一方で、消費者に対し明細書の確認をお願いしていくというようなプロセスになっていきます。

ペイメントシステムへの参加者の連携により
安全・安心なカード決済環境の実現を目指す

消費者の信頼は私たちすべてが連携をしていくことから生まれてきます。これを正しく履行するため、私どもは大きな責任を負っていると考えています。私どもは独りで戦っているわけではなく、サポートをしてくれる大勢の人たちがおり、Visaは日本はもとよりアジア太平洋地域、そして世界においても皆様と共にこのテーマに日々取り組んでいきます。私どもの戦略や制度、あるいはプラクティス、そして関係者の皆様が直面をしている課題や問題をお互いに共有することにより、ペイメントシステムが守られ続けていくと考えています。

2020年まであと4年ですが、協議会が作った実行計画に基づき、決済インフラを刷新し、置き換えていくための時間軸として、4年というのは決して長くないのだろうと思っています。これを確実にやり遂げていくためには、しっかりしたマイルストーンを策定し、進捗状況を管理し、必要なフォローアップをタイムリーにしていくことが、これから求められていくでしょう。Visaはこのような日本の取り組みをこれからもしっかりとサポートしながら、2020年には世界に誇れる素晴らしい、安全・安心なカード決済環境が実現できるように取り組んでいきたいと考えています。

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※本記事は2016年3月12日に開催された「ペイメントカード・セキュリティフォーラム2016」のビザ・ワールドワイド・ジャパン リスクマネージメント シニアディレクター 井原亮二氏の講演をベースに加筆を加え、紹介しています。

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