モバイル送金が破壊するカード決済

2017年5月9日7:38

日本でもモバイルで個人間送金できるサービスが徐々に増えており、注目度は高まっているが、海外ではVenmoやSquare Cash、Zelleなどのモバイル送金サービスが登場している。そこで、NCB Lab.の小林均氏に、欧米を中心としたモバイル送金サービスの動向について紹介してもらった。

NCB Lab. 小林均

①モバイル送金の隆盛

現在、欧米を中心として、モバイルで個人間送金ができるサービスが台頭している。多くは銀行口座と個人の携帯電話番号やソーシャルメディアのアカウントを紐付けて、銀行口座番号を使わずに宛先へ送金ができるというモデルだ。

割り勘の食事代の支払いなど、現金や小切手を使っていた場面において、モバイルで簡単に送金しあうサービスが消費者にフィットし、若年層を中心に急激に利用が伸びている。調査会社のForrester Researchはこのような個人間送金サービス市場の総取扱高は2019年までに170億ドルに達すると試算している。

世界の送金事業者は近年、あることに気づきはじめた。それは、送金は個人間だけに閉じたものである必要はないということ。たとえば街の喫茶店でコーヒー代を支払う際に個人が店舗に送金すれば、それは決済になる。個人のスマートフォンを決済端末へQRコードやNFCでかざす手間がなく、スマートフォンやタブレット間で取引が完結する。いま、送金モデルがモバイル決済の景色を変えようとしているのだ。

② モバイル送金の代表格Venmo

現在、米国の大学生の間では、“Just Venmo Me.”という会話がかわされる。これは「モバイル送金サービスVenmo(ベンモ)でお金を返してくれ」という意味の言葉である。このような造語ができるほど、Venmoは大学生に広く浸透しており、友人との割り勘の食事代や、集金リクエストに今や欠かせないツールになっている。

Venmoはペンシルバニア大学のルームメイトだったイスマイル氏とコーティナ氏が2009年に設立。卒業後、彼らは別々の会社へ就職するも、互いに退職して一緒に起業することを決意。当初はバンドからファンへMP3を直接配信できる音楽アプリ制作会社を計画していた。ある日イスマイル氏が家に財布を忘れ、コーティナ氏にお金を借りた後、返済のため銀行の小切手をコーティナ氏宛てに書いた際、「小切手を書くのも銀行へ現金化しに行くのも面倒なので、これをアプリでできたら良いのでは?」というアイデアを思いつき、当初の予定を変更してVenmoを設立するに至った。

そのVenmoは2012年、BrainTree(ブレインツリー)に2.620万ドルで買収された。BrainTreeは2007年創業のAPI型の決済ゲートウェイ。数行のソースコードをサイトに埋めこむだけで、オンライン決済が可能になるというサービスを提供していた。導入企業の多くがスタートアップ。いまでこそ有名になったシェアリングビジネスのUber(ウーバー)やAirbnb(エアーBアンドB)などが顧客である。

顧客の成長とともに名を挙げてきたBrainTreeは2013年にPayPal(ペイパル)に買収される。BrainTree買収の際、おまけでついてきたVenmoは、当初PayPalとバッティングすると考えられていた。PayPalはE-mailで送金するサービスで成長し、モバイルに進出した。Venmoは携帯電話番号やFacebook(フェイスブック)で送金するモバイルサービスを提供している。両者が別会社であったなら、強烈にバッティングしていたに違いない。

PayPalもBrainTreeもVenmoのブランドを残して運営。ミレニアルズからの支持率を考慮してのものだと思われる。

Venmoの2013年の取扱高は5億ドルだったが、2014年には24億ドル、2015年には75億ドル(約8,000億円)に飛躍している。2016年第1四半期は32億ドル、第2四半期は40億ドル、第3四半期は49億ドルと、第3四半期時点ですでに前年を上回っている。PayPalやGoogle、Squareといった名だたる企業が個人間送金サービスに参入するなかで、1人勝ちに近い状況で取扱高を伸ばしてきた。なぜここまでVenmoが実績を伸ばすことができたのか、何が顧客へ受け入れられているのかを見てみよう。

③送金はコミュニケーションの1つ

Venmoの登録は簡単。Venmoアプリを開いたらFacebookアカウントIDと連携し、氏名、携帯電話番号、社会保障番号の下四桁を入力する。さらに銀行口座もしくはクレジットカードを登録すれば完了する。送金は基本無料だが、クレジットカードからの送金の場合、送金額の3%を送金者から徴収する。

Venmoで送金したお金は相手側のプリペイド口座に着金、そのお金を引き出す際は、アプリから出金申請する。Venmoは、登録、送受金、出金をモバイルアプリでできるよう、手軽さを重視した設計とした。

下記のアプリ画面は、代表者が支払った食事代の立替分を友達に送金リクエストしている画面である。代表者は友人たちへ、ディナー代として1人17.38ドルを請求している。

Venmoではお金のやりとりがタイムラインで表示される。例えばアマンダは、自分以外の3人がちゃんと代表者にディナー代を支払っていることがわかり、早く払わなくてはと焦ることとなる。Venmo内のグループチャットでは誰と誰が食事代を割り勘したかなどの情報を参加者が閲覧でき、グループ活動履歴に相当する情報が記録されていく。

このスマーフォンアプリのUI/UXから、Venmoは個人間のコミュニケーションを重視した設計をしていることが伝わってくる。利用者が送金や割り勘をする際は、食事やエンターテインメントなど利用者同士のコミュニケーションが必ず発生していることに着目し、コミュニケーションツールとしてVenmoを発展させてきた。Venmoユーザーは週に4,5回アプリを起動するものの、送金を利用せず、タイムラインをただ眺めるだけに使っているケースがよくあると言われる。

Venmoはユーザーインターフェースに加え、マーケティングにおいてもミレニアルズを囲い込む施策を徹底的に行っている。

2012年、Venmoはプリストン大学のハッカソンイベントで、技術的な話を交えて、アプリのデモを実演した。イベントの最後には、Venmoの社員がイベントへ参加した大学生へ2ドルをプレゼント。受け取るためにはVenmoのアカウント開設が必要なため、Webリテラシーが高く、好奇心旺盛な大学生から顧客となっていった。彼らがインフルエンサーとなり、研究室、クラブ単位で顧客が広まった。大学生は活動費や飲食代の徴収など、割り勘し、送金し合うケースが多い。

そのほか友人紹介によってお金を獲得できるゲームキャンペーンを開催したり、格闘技など有料番組の利用料を割り勘できるようにしたほか、若年層に人気のユーチューバーをCMに起用したりと、ミレニアルズに響くマーケティングを徹底的に実施した。もともと顧客基盤を持っていたわけではないVenmoは地道なプロモーション活動によって拡大していった。

 

④送金と決済の融合でマネタイズ

そうして顧客を獲得したVenmoであるが、個人間送金サービスは基本無料である。マネタイズのために施策を打った。ペイウィズVenmo(PaywithVenmo)というサービスだ。

これはVenmoアプリを使って加盟店に送金ができるというもの。つまりVenmoで決済ができてしまうというものだ。2016年初頭にテストを開始。Venmoの特定ユーザーにサービスを提供していたが、このほどVenmo利用者全員にサービスを開放した。

加盟店は数百万人のVenmo利用者とソーシャルに接続することができる。Venmo利用者のアプリ利用頻度は高く、決済チャットで加盟店名が話題にのぼれば、人気店になれる可能性がある。

スタート時の加盟店はMunchery、Gametime、Priv、Poshmark、Hop Market、Wish、Parking Panda、Dolly、Urgentli、Boxed、Delivery.comである。

これらの加盟店では、単に支払いができるだけでなく、送金サービスのように割り勘が簡単にできる。それがVenmoの強みとなっている。

加盟店からは数パーセントの決済手数料をVenmoが徴収する。個人間送金サービスで獲得した顧客基盤を活用し、マネタイズへと動き出している。この動向は他の送金サービスにも見られる。Venmoに先行する形で始めているのがフィンテックの重鎮、Squareだ。

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